とりとめ

遠い将来の思い出/やや近い将来への忘備録

土木学会誌 2020年12月号 特集:災害情報の新たなステージへ

http://www.jsce.or.jp/journal/thismonth/202012.shtml


京大防災研 矢守先生、静岡大 牛山先生の寄稿は、両先生の立ち位置を理解するのによいと感じた。
他には、東大 関谷先生の「避難の心理モデル」が興味深かった。

災害情報は防災・減災の「主役」なのか? ─「行動」・「体感」・「過去」とのブリッジあってこそ─

矢守 克也(京都大学 防災研究所巨大災害研究センター 教授)

  • 情報(避難勧告・指示など)は避難のきっかけの主役ではない。
  • にもかかわらず、災害のたびに情報の改善ばかりが試みられてきた。
  • 情報を生かすには行動、体感、過去とのブリッジが必要。

「災害対策は(ハザード)情報の高度化ばかりが着目されるが、情報と行動の橋渡しが機能しなければ意味をなさない」といった指摘は、コンサルタントとしても身につまされるところ。

「行動」とのブリッジ―「避難スイッチ」

「避難スイッチ」とは、行政から与えられる避難情報とは別に、気象や河川情報、身近な変異、周囲の人の言動の三つを主たる素材として、自分たちの「逃げどき」を具体的かつあらかじめ決めておくことを指す。

  • 避難スイッチを作るための住民ワークショップを、これまで繰り返し開催してきた。
  • 使い道が認識されていない情報は、公開されても全く注目されない。


気象や河川情報といった一般的な情報は、避難スイッチの1/3の素材でしかないというのが興味深い。口コミなど、身近な情報の方が行動に結びつきやすいというのは、災害に関わらずみられることのように思う。
だから、ワークショップのような草の根の活動が重要なのは理解できるが、一方でそれを特定の先生方が津々浦々でやるわけにもゆかないので、どう制度化するのかが課題とも感じた。安易に行政や教育の現場に担わせようとするのも現実的でないし。

「体感」とのブリッジ―平熱・微熱・高熱

災害情報は、それが示す体感や現実と結び付いていないと役には立たない。

  • 最近の災害がありありと記憶されているうちに、近辺の当時の様子(ため池の水位、気象情報など)を共有するワークショップを開催。

「過去」とのブリッジー「既往最大」との比較

  • 既往最大となるような降雨が増えてきており、またそのような場所で犠牲者が出やすいこともわかってきた。
  • 住民が既往最大値を把握して、予想雨量との比較ができるような情報提供の仕方が必要。


最近では、防災科研クライシスレスポンスサイトでも「大雨の稀さ」を出すようになっており、絶対値でなく統計量を参照する意義は(差し当たり専門家の間では)広まっているように思う。
一方で、住民にとってみると、統計の期間(50~100年)は個人の記憶に比べると長すぎるため、既往最大と言われても実感が湧くのかはやや疑問。〇年に1回といった、統計分野特有の指標も、そのままでは使いづらいように感じる。

風水害の災害情報の有効性と課題

牛山 素行(静岡大学防災総合センター)

  • 風水災の犠牲者も何らかの避難行動をとっていたと推察される場合も多い。「避難させる」ことを志向した危険情報の拡充は、必ずしも状況の改善につながらない。
  • 自宅からの立ち退きをしなければ却って助かったケースも想定される。避難はすればよいというものではない。
  • 犠牲者は多くが低地など、水害の起こりうる場所で発生している。
  • 一方、住民の多くは居住地域の危険性を適切に把握できていない。
  • 行政機関で防災業務にあたる人材の育成、強化が不足している。